サバイバルファミリー

サバイバルファミリー(2017)を見た。

舞台は東京。突如として電気水道ガス二次電池すらもストップして都市住民の日常が失われる。当然ながら人々は軽いパニックを起こすわけだが、誰も日本のインフラを無意識に信じているため「どうせすぐに復旧するだろう」とたかを括って『日常』を送ろうとする。しかし現実はそう甘くは無かった。いつまでも戻らない『日常』に少しずつ人々の心が荒廃していく。そう、都市生活を支えていた文明が崩壊したことを人々は受け入れ始めたのだ―。小日向文世おとうさんと深津絵里おかあさん率いる主人公家族は、柄本明おじいちゃんが暮らす鹿児島を目指す。自転車で。

この映画のメインはSFでも謎解きではない。鹿児島への道中で繰り広げられる主人公家族のドタバタと再生をシュールかつコミカルに描いている。ストーリーや演出がいちいちおもしろいので文明が崩壊した理由なんてどうでもよくなってしまう。そしてこの映画は・・・とても日本っぽい。日本社会で生きる人間が顔を引きつらせながら「アー、わかるわかる」と言いたくなるような日本人にしか通じないネタが散りばめられている。そしてそれらが絶妙なリアリティを生み出す。たとえばインフラがストップしたあとも小日向文世おとうさんは何としてでも会社に行こうとするしサラリマンたちは停電で開かなくなった自動ドアをブチ壊してまで出社しようとする・・・・なんとも日本らしいシーンではないか。

個人的に爆笑したシーンは、周りの日本人がヒィヒィ言いながら辛うじて生活している一方で、順応してポストアポカリプスを楽しむ『完璧すぎる家族』が出てくるところ。見てくれ完璧、サバイバル知識は豊富、主人公家族がヒィヒィ言っている傍でこの完璧家族はポストアポカリプスをエンジョイしている。・・・・その余裕がなんとも鼻につく。完璧家族のおとうさん役が時任三郎、そしておかあさん役はなんと紀香だ。シュールな演出やキャスティングがいちいち神がかっていて笑いを誘う。キャスティングの妙が海外の人に通じないのが残念。

映画はあっさりと意外なラストを迎える。決して説教臭いストーリーやオチになることなく何気ない日常の尊さをうまく描けている。ポストアポカリプスものは海外作品を見ても、予算をかけまくってVFXを多用して演出でポストアポカリプスを表現するか、低予算で綻びゆく人間の内面に焦点をあてるかの二つに一つのような気がする。サバイバルファミリーは後者だが、ダニー・ボイル28日後...のようなエグみはない。エグくなりそうなシーンにもネタを放り込むことで絶妙なバランスを保っている。本当におもしろかった。