ヒート

ヒート(1995)を見た。ここ1週間で3回ほど見たと思う。

このヒート熱は、流行りの病のように数年ごとににやってきては、俺を魅了して過ぎ去っていく。『時間は運の賜物だ』というニールの名言を残して。(すぐにこの名言を忘れるのだが...)

この映画にはたくさんのおっさんが出てくる。全員タフガイだ。冷静に考えたらおっさんだらけの映画なんて見たくない。ディスプレイから加齢臭がしてくるからだ。しかし見てしまうと世界観に魅了されてウットリする。

敵対しながらもお互いを認め合うホモソーシャルな関係性が渋い。お互い仕事にプライドを持っている。プロフェッショナルとしてのプライドとプライドが激突する。ここにはジョン・ウー男たちの挽歌』の人間模様をさらに拡大してディープにした濃密さが厳存している。

家庭を顧みないタフな男たちと、それに振り回され泣かされる女たち。平成は過ぎ去り、令和という元号がすっかり定着した2020年代の今、ヒートの世界観はどこかアナクロな80年代90年代の遺物のようにも感じられる。ただ『仕事熱心な男になりたい』とまでは思わないものの『タフな男になりたい』と憧れる自分がいることは否定できない。だからこそこの映画に惹かれるのだと思う。

・イーディの部屋に『原色日本の美術』
・ヴァルキルマーの息子役の寝顔めっちゃヴァルキルマー(特に口あたり)
・厨房バックレくんがデニス・ヘイスバードだと気付かず。大統領。
・義理の娘が子役時代のナタポーだとも気付かなかった
・ダニートレホはいつだってダニートレホ。

銃声、ややこしい電話のやり取り、アンブッシュ、真夜中のハイウェイ、ヘリコプター、夜明け。これぞマン師。

2022/11/19

・DEADWIND
北欧ノワールのドラマ。邦題には“刑事ソフィアコルピ”という副題が付いてる。まだS1の冒頭数話しか見ていないが荒涼とした雰囲気がインソムニア(2002)を彷彿とさせて好み。今のところハリウッドかぶれの演出もない。

・ヒロシのぼっちキャンプ
いつも寝る前にベッドで横になりながら見てる。私は文明の利器を愛しておりキャンプには全く興味がない。ヒロシにも興味はないが見ていると落ち着く。私の中でヒロシはマイルドなベア・グリルスのような立ち位置になってる。

・ネオンデーモン
アマプラの配信終了前に駆け込みで見た。見るのは4度目くらい。登場人物全員美男美女。人間の底なしのエゴや美意識に思いをはせる。レフン最高。

プリズナーズ
こちらもアマプラの配信終了前に駆け込み。おもしろかった。人間は感情的になるとバカになる。ジェイク・ギレンホールは内面にヤバさを秘めたキャラが演じることが多い気がする。

桜桃の味
キアロスタミらしい作品。ひたすら荒涼とした山岳地帯を走るだけの絵が多いが見終わったあとグッと来るものがある。割とシリアスな話なのでラストの演出はオチが効いてる。もっと最近の映画かと思いきや97年とな。

女神の見えざる手
ジェシカ・チャスティンいつも同じような役してんなと思った。スカッとジャパンみたいな番組が好きな人にはおすすめ。Amazonのレビューは自分とは相性が良くないなと思った

・ドライブ・マイ・カー
村上春樹を題材にした映像作品にはノルウェイの森という前例があったためあまり期待していなかったけど良かった。映像と構図の美しさに惹かれた。Cinematopraphyってこういうことかーという感じ

ディナーラッシュ
好きな映画。中学生のときにNHKBSの深夜枠で放送していたのをたまたま見てから虜になった。レストランの雰囲気も、厨房の雰囲気も、人間模様もすべて良い。マーク・マーゴリスが出演してる作品は良い作品のことが多い。

・シーズ・ガッタ・ハヴ・イット
良い。スパイク・リーの作品は説教臭くて胸やけしそうになるものも少なくないが、これは見ていて楽しい。これ見ると“BROOKLYN”と書かれたサイクリングキャップほしくなる

・コーヒー・アンド・シガレッツ
モノクロのオムニバス映画。見るのは3回目くらい。登場人物が豪華。ここまで登場人物がタバコを吸ってる映画は今後二度と作られないだろう。会話のやり取りが日本っぽくて親近感を覚えてしまう。

Miami Vice

マイアミ・バイス(2006)を見た。TVシリーズ版ではなくマイケル・マン監督本人の手によってリメイクされた2006年の映画版。マイアミ市警の捜査官がアンダーグラウンドに巣食う麻薬カルテルと対峙する。全体的に硬派でホモソーシャルな雰囲気があって『これぞマン師!!!』という感じ(?)。銃撃シーンでは乾いた快音がとどろき同監督が手掛けたヒート(1995)やコラテラル(2004)の名シーンを思い出させる。映画館の音響で見れた人が羨ましい。映像は全体的にハンディショットなので酔う人は酔うと思う。レンズフレア演出あり、血しぶきあり、そのおかげでモキュメンタリーのような雰囲気に仕上がっている。役者陣は脇役も含めてなかなか豪華。音楽もかっこいい。

ただ悲しいのは、TVシリーズが成功を収めただけに『マイアミ・バイスのリメイク!!!』という十字架を生まれながらに背負わされた本作は、TVシリーズに思い入れがあった人たちからは『なんか違うよね・・・?』とネガティブに受け止められやすい素地があった。ではマイアミバイス初見におすすめかというと、ストーリーやキャラクターの描かれ方があっさりとしたものになっていて初見には世界観が掴みにくく、想定したターゲットがTVシリーズ視聴者層なのか初見なのか中途半端な印象を受けた。まあ好き嫌いが分かれる映画だろう。ヒート(1995)やコラテラル(2004)の雰囲気が好きな方にはおすすめ。私は割と好きです。

余談。高校時代この映画のDVDを持っていた。たしか東芝HDDVDレコーダー販促パンフレットが入っていた気がする。あの頃はブルーレイとHDDVDが覇権争いをしていてHDDVDはとどめを刺される直前だった。アナログが停波されて地上デジタル放送に完全移行するのは遠い未来の話・・・だと思っていた遠い遠い過去の話だけれども。

サバイバルファミリー

サバイバルファミリー(2017)を見た。

舞台は東京。突如として電気水道ガス二次電池すらもストップして都市住民の日常が失われる。当然ながら人々は軽いパニックを起こすわけだが、誰も日本のインフラを無意識に信じているため「どうせすぐに復旧するだろう」とたかを括って『日常』を送ろうとする。しかし現実はそう甘くは無かった。いつまでも戻らない『日常』に少しずつ人々の心が荒廃していく。そう、都市生活を支えていた文明が崩壊したことを人々は受け入れ始めたのだ―。小日向文世おとうさんと深津絵里おかあさん率いる主人公家族は、柄本明おじいちゃんが暮らす鹿児島を目指す。自転車で。

この映画のメインはSFでも謎解きではない。鹿児島への道中で繰り広げられる主人公家族のドタバタと再生をシュールかつコミカルに描いている。ストーリーや演出がいちいちおもしろいので文明が崩壊した理由なんてどうでもよくなってしまう。そしてこの映画は・・・とても日本っぽい。日本社会で生きる人間が顔を引きつらせながら「アー、わかるわかる」と言いたくなるような日本人にしか通じないネタが散りばめられている。そしてそれらが絶妙なリアリティを生み出す。たとえばインフラがストップしたあとも小日向文世おとうさんは何としてでも会社に行こうとするしサラリマンたちは停電で開かなくなった自動ドアをブチ壊してまで出社しようとする・・・・なんとも日本らしいシーンではないか。

個人的に爆笑したシーンは、周りの日本人がヒィヒィ言いながら辛うじて生活している一方で、順応してポストアポカリプスを楽しむ『完璧すぎる家族』が出てくるところ。見てくれ完璧、サバイバル知識は豊富、主人公家族がヒィヒィ言っている傍でこの完璧家族はポストアポカリプスをエンジョイしている。・・・・その余裕がなんとも鼻につく。完璧家族のおとうさん役が時任三郎、そしておかあさん役はなんと紀香だ。シュールな演出やキャスティングがいちいち神がかっていて笑いを誘う。キャスティングの妙が海外の人に通じないのが残念。

映画はあっさりと意外なラストを迎える。決して説教臭いストーリーやオチになることなく何気ない日常の尊さをうまく描けている。ポストアポカリプスものは海外作品を見ても、予算をかけまくってVFXを多用して演出でポストアポカリプスを表現するか、低予算で綻びゆく人間の内面に焦点をあてるかの二つに一つのような気がする。サバイバルファミリーは後者だが、ダニー・ボイル28日後...のようなエグみはない。エグくなりそうなシーンにもネタを放り込むことで絶妙なバランスを保っている。本当におもしろかった。